2007年9月2日日曜日

コロシヤ



子どもの頃

フルサトにはコロシヤがやってきた
年に一度か二度
村の公民館の広場にやってきて、店開きをした
私たちはおばあちゃんに連れられて
殺してもらう動物を手に手に
順番待ちの長い列に並んだ

年をとって家畜としての役目を果たせなくなった
ニワトリとか
山羊とか
もう死ぬのを待つばかりの年老いたウサギとか
そんな動物達を抱えた
長い長い列が出来た

コロシヤは動物達をくるり剥いて肉に代え
毛皮や内蔵を引き取って
私たちに肉になった動物達を返してくれた
時に望めば内蔵も返してくれることもあった
私たちはそれを受け取ってお金を払い
包みを手に手に家に帰った

コロシヤは動物達が悲鳴をあげる間もなく
あっという間に肉に代えた
その血の色が
幼い私の記憶にはないから
きっとものすごい手際の良さで
私たちが躊躇うよりもずっと早く
動物達を肉に代えていったんだと思う
動物達に痛みを感じさせる隙もないぐらい
動物達が自分の最期に気付く隙もないぐらい

行きに動物達を抱いていた腕の中には
帰りにはその肉の包みがあった
どちらもあたたかくてしっとりとしていたように思う
毛皮や内臓を抜かれて少し軽くなったはずの包みは
私の手には少し重くなったようにも感じられた
私は大事に大事にその包みを持った

家に帰って
おばあちゃんが動物達をおいしく煮てくれた
裏の畑でとれた野菜もたくさん入れた
おばあちゃんの煮物

飼っていたニワトリも
妹達と一把づつ名前を付けて可愛がっていたウサギも
誰かが仕留めてきた山の獣も
私たちはいつだってみんなみんな残さず食べた
年老いた動物達はとても堅かったけれど
黙って食べた

おばあちゃんはいつも
ちゃんと噛んで残さず食べらっしよ。と、厳しく言ったから
私たちは言いつけを守って
しっかりとよく噛んで残さず食べた
しっかりしっかりよく噛んで全部全部食べた

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